義兄「こんなあるんか!、ほかさなあかん、こんなもんほかさなあかん」
荷物の確認をしながら義兄がわめき立てる。
ここでタヌキ登場。
タヌキ「兄ちゃんの引っ越しやない、Wちゃんが引っ越すんや。好きなようにさせたらええ。」
義兄「どないすねん、はいらへんで」
タヌキ「はいらんかったらもってかえればええ」
義兄「ゴミ屋敷になってまうぞ、ほかさなあかん」
タヌキ「いちどもっていかなきゃ気が済まへんやろ、だからいったんや、2トン車借りとかなきゃだめやて」
義兄「んなもん、軽トラで3回も往復すればすむわ!」
ひとしきり河内弁の怒声の応酬のあと、黙々と積み込み作業が開始されていた。
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Wizerd73才、生まれて初めての引っ越しは、近いからという理由で(徒歩数分)引っ越し業者を頼まず、身内を動員して義兄が近くの土建屋から借りてきた軽トラで運ぶという力技で行うことになった。さらに悪いことにWizerd退院と同時の引っ越しなもので事前準備はろくすっぽしていない。
動員されたのは義兄、その妻、義姉(Wizerdの妹)、その夫、姪(Wizerdの姉の娘)、うちの亭主(タヌキ)、私、うちの息子の総勢8名である。
引っ越し先は一人暮らしには広すぎるくらいの3DKのマンション。荷物の入らないうちにいちど見たが、確かに広い。
が…
Wizerdの荷物は半端でなく多い。
ダイニングテーブルと椅子4脚、ベッド、32インチの大型テレビ、整理ダンス大小取り混ぜて4本、飾り棚3つ、食器棚2本、ドレッサー、ベンチチェア、ライティングデスク、座卓、こたつ、姿見、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ。
大物だけでもこれだけある。
これらに付随する「中身」に台所用品、日用品、さらに洋服ダンス3本分の衣類と造花の山がこれに加わる。
きわめてアスペルガーらしく「コレクション」もある。
驚きはなんと言ってもこれだろう。
民芸品段ボール11箱分。
こけしやら各地の土産物の民芸品やら人形やらである。
(私がまる2日かけて梱包した。)
これは実は家にあった民芸品の総量の約半分である。
手狭なマンション住まいになるからというのでWizerdも泣く泣く半分はあきらめたのだ。
と、黙々と男二人が大物を積み込み一回目の輸送開始。
軽トラ一台分では運べる量はたかが知れている。
はっきり言ってほとんどのものが残っている。
引っ越しの行く末を暗示する気がしてならない。
同時に私も新居に移動。(チャリで2分)
新居に荷物が入れられるよう、先日運んで部屋の一角に散乱していた荷物をどけ、家具が入るスペースを作る。
軽トラもほぼ同時に到着。荷物を運びはじめるが荷物を入れるとあっという間に部屋が狭くなっていくのを感じる。
「あと残りが詰まるだろうか」そんな不安が頭をよぎる。
10分ほど居ただろうか、私が新居から家に戻ると、既に Wizerdが口から泡をとばさんが勢いで義姉と義兄嫁に指示を飛ばしていた。
W「そのカップも入れて、それ高かったんや」
義兄嫁「はいはい」
W「それな~、それも値打ちものやで、いれといてや」
台所用品も大半は適当に私が段ボールに詰めておいたのだが、Wizerdがどれを持っていくつもりなのかは正確には確認できなかった為、お気に召さない部分があったようだ。あとから一箱ほど陶磁器の箱が増えた。
ま、こんなのはまだ序の口である。
さて、普段我々が「化粧部屋」と呼んでいるところに手をつけはじめたところからWizerdの魔法が炸裂する。
8枚組み立てて用意しておいた衣類用の大型段ボールに衣類が全部入るまでものの30分とかからない、あっという間の魔法であった。それでも入りきらないものが出るは出るは!こんなに詰め込んでいるとは…まさに魔法である。
洋服ダンスの衣類の残りを70リットルゴミ袋3袋に詰め込み、やっとの事で衣類終了とおもいきや、まだ整理ダンスが4本残っている。これらは近距離ということもあり、段ボールに移さずに棚を引き抜いて簡単にカバーを掛ける特殊魔法で運ぶことになった。
これで終わりではない。
1時からの昼食ののち梱包作業再開…のはずが、ここでまた一波乱。
W「カーテンと電磁調理器買っといてくれた?」
義姉「あ、まだや、買いにいかな」
W「電磁調理器用の鍋も買っといてや」
Wizerd、「年寄りやからガスはもうつかわへんねん」という理由で、電磁調理器に頼る予定だったのだが、調達ができていなかった。
義姉夫妻、義兄嫁、姪の4人が梱包作業から離脱。わらわらとホームセンターに買い物にいってしまった。
旧居に残されたのはWizerdと私の2人のみ。
人気の少なくなったところでWizerdの一撃が。
W「なんで四人もいかなあかんねん、ほんま役に立たんわ~」
確かに…(--;)しかし意図的に逃げたような気もしないでもない。
追い打ちをかけるように新居班の息子から電話。
息子「ねぇ、まだあるの?もう入らないよ」
(予想は的中した)
私「まだまだだ」
息子「…」
気を取り直し、衣類の残りの梱包作業と荷物の運び出し作業を続ける。
さて、物置部屋にあった余剰(…のはずだった)みかん箱などのサイズの揃わない段ボール箱が特殊召喚される。
この時点でまだ荷物は半分も運び終えていない。
ここでタンスとタンスの間からエアキャップに包まれた姿見が撤去されるとその裏には、まだ1メートル以上の高さにうずたかく積み上がった某鉄道系デパートの袋があった。
Wizerdのここでの技は「カバン魔法」であった。
袋の一つ一つからバッグが出てくる。これを一つ一つ品定めをしてゴミと持っていくものに分けていく。
W「プラダのバッグがまだあったはずなんやけどな、このところずっとプラダにしてるねん」
(そーかいそーかい…プラダというと黒魔法というわけか)
段ボール二つに持っていくバッグを詰め込んでやっとこさ終了。
買い物部隊も戻ってくる。
そうこうしているうちに軽トラで3往復ほどしたタヌキが戻ってきてドレッサーを指さし声をかける。
タヌキ「これ、中出さんとはこべへんで。はやくせぇや、これなかったら顔の修理できひんやろ。」
その場にいたWizerd以外の全員が笑いをかみ殺したのは言うまでもない。
そこでやっと肝心要のドレッサーに手をつけはじめる。この時点で既に3時を回っていた。
軽トラで往復していた義兄が私に聞く
義兄「まだあるんかいな?」
私「まだまだあります。」
義兄「ほかさなあかん…ほかさなあかん…」
(まだ言ってる)
…
荷物のほとんどが運び出され、Wizerdが新居に入ったのは既に5時を回っていた。
信じられん…なんつー引っ越しだ。
7回目の軽トラ出動で最後の荷物を送り出した時点で、新居側の運搬を担当していた息子を呼び戻し、私がWizerdの新居に出向いたのだが、そこには想像を絶する世界が広がっていた。
荷物で身動きが取れない。
そして…
何一つ開梱されていない。
そうだ、途中、新居に行っている息子から電話で報告があったのだった。
「入れる場所の確保に手間取り、とても整理まで手が回らない」と。
急いで荷物を整理しなくては、足の悪いWizerdはたちどころに困る。
姪と私の2人で開梱作業を開始。
2時間かかってやっと台所用品と日用雑貨を納めるべきところに納め、最低限の生活ができるように準備。
その間、Wizerdは「あれがない、アレどこいったんや」をひたすら唱え続けたのであった。
(ちなみに、最後に残ったのは姪で、9時近くまで新居の整理作業をしていたそうな)
これで終わりだ!のはずがない。
義姉夫妻と姪が作業をするのを横目に、7時に撤収し家に戻ると、そこには散乱する大量のゴミと大量のホコリとが待っていた。
追い打ちをかけるように
「おい、家具をうごかすぞ」タヌキの声が…。
そうだ、Wizerdの「いらわんといて」がなくなった今、タヌキの天下なのだった。家の中を片づけたくて仕方なかったタヌキが黙っているはずはないのだった。
おまけに…
掃除し終わるまでは汚くて寝ることもできない。
結局それから1時間以上家具の移動と掃除にあけくれ買い物にでることができたのが夜の8時半。夕飯にありついたのが9時、片づけをして翌日のゴミ出しの準備をし、寝ることができたのはすでに夜半を回っていた。
これが
「単身者の身軽な引っ越し」
の顛末である。
ちなみに…1週間以上たった本日も、私はWizerdが去ったあとの家の中の不用品の整理と掃除に追われている。
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さて、この記事には「裏」があります。
Wizerdの新居に荷物が運びこまれるようすを息子がブログで書いてます。
よろしければごらん下さい。
http://blog.livedoor.jp/terazuhurido/archives/50866361.html
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