テンプル・グランディン女史の講演から考えたこと(3)-天才(予備軍)ばかりではない-

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毎度になるが、一応、女史の講演の動画のURLを貼り付けておこう
テンプル・グランディン 世界はあらゆる脳を必要としている(動画)



ではさっそく、話を進めよう。

全IQにおいてアスペルガー症候群者が特に高知能であるというデータは私は見たことがない。

上記をくつがえすデータがなければ、全IQで70を超え、自閉症スペクトラムの特質を明らかに持っていれば、アスペルガー症候群や高機能自閉症(あるいは特定不能の高機能広汎性発達障害)と診断されうるということになる。

(全IQで70以下は知的障害領域と分類されるので、ここでは触れない)


さて、手元に一冊の書籍がある。

「軽度発達障害の心理アセスメント」

軽度発達障害の心理アセスメント―WISC‐3の上手な利用と事例軽度発達障害の心理アセスメント―WISC‐3の上手な利用と事例
上野 一彦

日本文化科学社 2005-02
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心理アセスメントに関する利用事例集なので、アスペルガー当事者が読んでもおもしろい本ではないので、心理の専門家、教師やよっぽどアセスメントに興味のある向き以外にはおすすめはできない本であることを断っておく。


ただ、この書籍にはアスペルガー症候群のかなりの数の事例が載っている。

いろんな事例があるが、特段、アスペルガー症候群者が優れているという話は載っていない。


むしろマイナス面をどうするかの方が問題となっている。
特にコミュニケーション面でのマイナス部分は生存上大問題である。


グランディン女史は自閉症児には「天才予備軍」が多数いて、その才能を開発することが本人と社会のために非常に有用であると主張するが、果たしてそれが自閉症児の育成に関して最優先事項だろうかと考えると、ちょっと違うような気がする。


確かに、数値に表れない「画像型記憶」とか「画像思考」という特徴を持つ者も居るだろう。パターン思考に優れている場合もあろう。それはそれで思考に特異な傾向を与える可能性はあるにはある。


しかし、才能開発のための「関心に対する知的刺激や芸術的刺激」よりも先ずせねばならないのは、「社会性やコミュニケーション能力の落ち込み部分のフォロー」であったり「過剰な感覚のコントロールの補助」等なのではないだろうか。


一次不安を自身の知力で解消するほど高知能な部分がある場合をのぞき(まあ、あってとても特殊なケースだろう)、全般的な能力が標準的で(すなわち全IQで85~115程度)かなりの個人内差がある場合は、能力を生かすのに必要なことは、「一次不安」の解消や、「社会的スキルの獲得」なのではないだろうかと私は考える。


仮に伸びる可能性の高い才能の芽を持っていたにせよ、二次障害を起こしては、それは使い物にならなくなる。


さらに、一次不安がうまく解消され、二次障害を防止できれば、伸びるべき才能というものは、身近に材料さえあれば、かなりの確率で自発的に伸びていくものだと思うのだ。

(そう、脳は勝手に働きたがる…)

まとめると、


「天才(予備軍)」以外のほうが多いことと、仮に天才(予備軍)であっても、その才能の発揮を阻害する要因が大きいこと推定されるならば、支援の主軸は「才能開発」ではなく「弱い部分」を支えることにあるのではないかと私は考えるのだ。



<まだまだつづく>

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おまけ

しかし一体、なんて時間に更新しているんだ!
と、自分でも思う。

この時間って、タヌキ送り出して、睡眠薬飲んで眠くなるまでの時間なんですよ。





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コメント

勉強になります。
こんばんは。
親が定型発達です。
なので障碍といわれてもわかってんだよ!みたいなことをいわれます。
いい訳じゃないこともわかっています。
ああそういう人で自覚をうながさないとうまく育たないなあと。
オトナになっても趣味に生きる人になります。
これは本当ですね。
趣味=アマチュアと勘違いして無理して変な生き方して精神おかしくしている人が多すぎます。
自分もそうでした。
Re: 勉強になります。
akienさん、こんばんは。

親が定型の場合、なかなか理解されないって問題が生じるし、
親がアスペの場合、問題が生じても気がつきにくいって現象が生じますね。

アスペ児のためには、どちらの親にもそれぞれにサポートが必要だと思っています。

たぶんアスペルガー症候群者にとっては関心のある分野のひとつが生業というのがベストでしょうね。
プロかアマチュアかってのはある時点でそれをメインに食っているかよりも腕と意識の問題かなとも思います。
定型発達者より高い能力(ここでいう「才能」?)を持っていて、それがもしかしたら生きる術になりうるのかもしれない。
が、アスペルガーの定型と違う部分が定型多数の社会で生きていく上で大きなダメージになるから、才能を生かす以前に安心して生きることが難しい。

と狸穴猫さんの記事を自分なりにまとめてみました。
アスペだと自覚したのがわりと最近で、自分の能力を伸ばしたり、「コミュニケーション問題」を減らせるようにしたり、「感覚過敏」に対処したり等、アスペの脳と付き合っていこうとしています。

自覚するのが早く、何らかの支援を受けていれば、就労を始めいろんなことが少しは楽になっていたのかな…と思ってしまう今日この頃です。
狸穴猫さんの考えは正しいと思います。
しかしながら、目の見えない人は、それを補うために、聴力に優れる。つまり、何かが足りなければ、補う能力がでてくるのではないかとも思います。

また、たとえ人並みにしかできない事であっても、一つの事を集中して良い環境で毎日何時間も10年20年続けられれば、ものにならないことはないと思うのですが。

つまり、執着と過集中は大変な才能です。私は過集中が無いので羨ましい。欠点は長所の裏返しですから欠点があれば必ず長所があります。やはり才能に気づかずにいれば埋もれてしまうような気がします。

子供の才能を伸ばすことと、狸穴猫さんの考えていることは車の両輪ではないかと思うのですが、私がいじめにあったことがないため、そう思うのかもしれません。気に障ったらごめんなさい。
えーさんへ
えーさん、こんにちは。

安心していられれば各人各様、もつ能力は生かせると思うんです。
無理をしなくても能力を生かせる社会ってのが理想ですねえ。

今、NHKの小学生の生活科と発達障害児向けの番組を毎週見ているのですが、
これが結構良くできていて、大人のアスペルガー者でも活用できるのではと思いながら見ています。

http://www.nhk.or.jp/dekita/ja/frame.html
http://www.nhk.or.jp/comtr/ja/frame.html

大人向けのビデオ教材とか欲しいですねえ。


Re: 狸穴猫さんの考えは正しいと思います。
中明さん、こんにちは。

いえいえ、おっしゃるとおり、車の両輪だと思います。
…というか本来、車の両輪であるべきなんでしょう。

弱点のカバーにベースを置かざるを得ないというのは現状の社会的制約だと考えます。

それと、補償機能が発達するというのはあるでしょうね。
それが知能検査のでこぼこの凸の部分ではないでしょうか。

グランディン女史の講演でも、自閉者では脳の一次視覚野の利用度が高いケースがあるという話がありました。
このあたりは脳科学の発達によってもっと解明されるのが楽しみです。
現場に立つ当事者から見ると、幼児さんの場合年間100人ほどお会いするクライアントさんの中に天才予備軍は年に1人いるかいないかです。

児童期を過ぎると割合は増えますが、それでも年間数人いるかいないかです。

ま、もっと永くこの仕事に携わるとデータも変わってくるのかもしれませんが。
わーさんへ
現場からの貴重なご意見、ありがとうございます。

…となると、やはりアスペルガー児者全体としては「困難」の解消の方が問題ですかねえ。

天才(予備軍)とそうでないアスペルガー児者のどちらにもいい環境なのが一番でしょうが、
社会のリソースには限りがあるというところがやはりネックですね。

どちらにリソースを配分するかは文化的背景も大きく関係すると思います。



激しく賛同します。
こんにちは。
よく購読させてもらってます。(^^)

私も、グランディン女史の講演を見て、当事者のひとりとして、やはり違和感を覚えました。

自閉症当事者たちにとって、一番の問題であり、深刻な心の傷は、能力の高低ではなくて、人とのコミュニケーション能力であり、社会に適応できるか否か、だと思っています。

私のアスペの仲間たちに、無理して社会適応しようとしてる人、諦めて拒絶して孤独に生きる人、両方居ますが、生活のレベル如何を問わず、彼らの根底には、原始的な劣等感や、疎外への恐怖感・不安が常時存在してると思います。(現在ある程度社会適応ができるようになったと思っている自分にも、もちろん存在してます)

自分を理解してもらえるための努力、大切な人たちを傷つけないための努力は、決して怠ってはいけないと思います。
ただし、ありのままの自分の姿を、受け入れて、守ってくれる家族や友人などを作れる、作ろうとしようとする、キッカケを得ることのほうが、発明家になるチャンスなどよりも、自閉症者にとって、最重要な事なのではないでしょうか?
Re: 激しく賛同します。
さざきさん、はじめまして、ご愛読ありがとうございます。

成功が適応に直結する西欧文化と、直結しない日本の文化の違いが
違和感を生じさせるのかもしれませんね。

言い方を変えると、

成功すれば比較的ありのままに近い生存が許されるという環境と、
何よりもまず適応を求められる環境の違いかしらん。

アスペルガー者がナチュラルな感覚でいられる環境の確保、
このためには、特に定型の親御さんへのアプローチが重要なんでしょうね。



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