というわけで書評いってみる。
自閉症者の犯罪を防ぐための提言―刑事告訴した立場から | |
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この本はかつてネット上である自閉症者が起こした奇妙な事件に関する顛末とそれから得られた貴重な知恵に関する部分(後半)、そして自閉症児者を取り巻く言論環境の実情と「支援」の今のあり方が遵法教育をする上で妥当なものかという疑問を呈した部分(前半)からなる。
著者は自閉症関係の個性的な書籍を多く出している「花風社」の浅見淳子氏。前述の奇妙な事件の被害者でもある。
さて、アマゾンの書評コーナーをのぞいてみると、賛否両論思い切りわかれている。
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4907725876/ref=dp_top_cm_cr_acr_txt?ie=UTF8&showViewpoints=1
これほど評価が分かれる本も少ないだろう。
差別的で偏見や誤解に満ちたものとする書評と重要な視点であるという書評が混在する。
果たしてどちらが適切な評価なのか…と、私はワクワクしながら読み進んだ。
そして…読んでみて
極論はひとつも出てこなかった。
専門書ではないからデータに頼った書き方はしていない。
しかし論の進め方は極めて丁寧である。
取り立てて偏見を煽るような部分も見当たらない。
(自閉症者の奇妙な犯罪が近年目立つということは述べているが
自閉症者の犯罪率が高いなどとはタダの一言も書かれていない)
むしろ「偏見」が生じていく過程を分析した部分が興味深いし、自閉症者を社会の中で責任をもって生きていける存在として見ているところが好感が持てる。
この本のミソは自閉症児者が持ちがちな「誤信念」というものが時として「迷惑」や「触法リスク」となってしまう現象を実例をもってつぶさに解き明かしたことだろう。
自閉症者の触法リスクは定型者の触法リスクとは異質であるということがよくわかる。
ただこの本は反発する人が少なくないだろうとも思う。
理由は2つ。
・現在主流の支援団体等のやり方への批判が含まれること。
・自閉症者を責任のとれる存在と位置づけたこと。
親御さんにしてみれば、現在主流の支援団体のやり方を信奉している時には対峙する必要のなかった「我が子の迷惑リスク、触法リスクの低減」という課題がつきつけられる。つまり「社会の理解を!」と叫んでいるだけでは済まなくなるということである。
当事者にしても「誤信念」をもっていないかのセルフチェックという課題が出てくるし、様々な面で責任をとることを求められる。「社会の理解がないから悪い」という言い訳は通用しなくなる。
裏を返せばこの本は親なり当事者なりの「甘え」をいぶりだす踏み絵になるといった側面がある。
(ついでに言うなら、言葉尻に反応して感情に流された読み方をする人もいぶり出されると思う)
社会と折り合いをつけてやっていこう(そういう風に育てよう)としている人にとっては有用性が高い本だ。遵法教育だけでなく社会適応のためにも「誤信念・誤学習の防止」という視点は欠かせない、そういった視点を提供してくれる本だと思う。
多方面から反発が出るであろう問題にあえて切り込み、書籍化した著者の勇気に敬意を表したい。