初版が2005年の暮れだから結構前に発行された本である。2週間ほど前にツイッターで流れてきた情報から芋づる式に発見したのだが、久々に脳天直撃してくれた本だった。
読む目・読まれる目―視線理解の進化と発達の心理学 | ||||
|
視線研究の第一線のダイジェスト
この本は平たくいえば「目は口ほどに物を言う」とはどういうことか、そして「いかにして目は口ほどにものをいうようになったのか?」についての研究のダイジェストである。
視線理解からどういった情報が読み取りうるのか?
なぜ視線がコミュニケーション手段の1つとして機能するのか?
視線がコミュニケーション手段として機能するための目の形態進化
人間と他動物との視線利用のされかたの違い
などなど、なかなか盛りだくさんな内容がぎっしり詰め込まれている。
自閉症者児は定型発達者に比べて視線が合いにくいというのはよく知られた話だが、自閉症児での「目が合わない現象」の分析についてもかなりのページが割かれている。
文章が平易で読みやすいこともあり、あっという間に読み進めることができた。
定型発達者のスーパーマンぶりの詳細が明らかに
読んでいて最初に私の脳天を直撃したのは「健常者」の視線理解に関する機能のあまりの複雑さだ。
どうやら健常者には「顔認知装置」だけでなく「視線検出装置」とよべるようなシステムが備わっていて、視線だけでかなりのコミュニケーションが可能なようである。
そしてさらなる追撃は、成長段階での社会的情報収集がその能力をフル活用して行われていくといったくだりだ。
一つ一つの現象とその背景にある機能についての記述を
「ほー、どうみても私にはこの機能なさそうだわ~」
とか
「定型さんってやっぱりスーパーマンだわあ」
と妙に納得しながら読んでいったわけだが、
「学習に使われているシステム」が健常者とASD者では異なるといったあたりは、ASD児の療育に新たな地平を切り開く材料になるかもしれない。また、「視線理解」というのは、自閉症スペクトラム児者の状態像の多様さを説明するための重要なキーワードになるかもしれないとも思った。
読みやすいとはいえ一応学術書であるから、そのままハウツーとして利用できるような本ではないが、ASD児の養育にあたる親御さん、ASD児者の支援者には「ASD者に何が無理で何が無理じゃないのか」を検討する材料を提供してくれる本だと思う。
秀逸な編集にしびれる
余談ではあるがこの本、非常に読みやすい。
章立ての流れといい、文章のこなれ具合といい、専門書らしからぬすばらしさで非常にスムースに読み進めることができる。では内容が薄いかといえばそうではなく、情報の質・量ともに専門書たるに足るものをそなえている。
さらに素晴らしいのは著者が複数しかも10人超とかなり多いにもかかわらず、ぎくしゃくした感じがまるでしない。
これは編集の腕だと思わざるを得ない。
内容に満足、そして読みやすさにしびれる。
実にいい読書だった。

にほんブログ村
発達障害ランキング
↑ブログランキング参加してます。↑
応援の1日1クリックを
春よこい!
…
ぼちっと↑
おひとつ
- 関連記事
-
- ユニークな本が出たので速報 → アスペルガー症候群の難題/井出草平著
- 【書籍】自閉っ子の心身をラクにしよう! 栗本啓司著
- 【書籍】伸ばそう!コミュニケーション力/森嶋勉 著
- 【書籍】読む目・読まれる目-視線理解の進化と発達の心理学/遠藤利彦 編著
- 【書籍】アスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?/米田衆介著
- 【書籍】自閉症者の犯罪を防ぐための提言/浅見淳子
- 【書籍】「すみません」の国/榎本博明著