【書籍】自閉っ子の心身をラクにしよう! 栗本啓司著

今日は書評、しかもかなりおすすめ度の高い本だ。


自閉っ子の心身をラクにしよう!

栗本啓司 花風社 2014-08-28
売り上げランキング : 14971
by ヨメレバ



操体法をベースにした自閉っ子向けの心身のコンディショニングの本


著者の栗本氏は小田原でからだ指導室あんじんを開いておられる方。今年の6月に開かれたこの本の版元である花風社主催のコンディショニング講座に参加した際にお目にかかったが、細身の好中年といった感じで作務衣がよく似合う方。



この本の末尾に栗本氏の読んできた本ということで様々な書籍が挙がっているが、その書籍名からも、氏が洋の東西を問わず、様々な手法や理論を柔軟に取り入れ、現代人の心身を癒す方法を構築しようされている方だというのがうかがえる。





簡単に試せるボディワークのハウツーがぎっしり


実はこの本は花風社の自閉っ子シリーズの中ではかなり異色である。


ニキ・リンコさん、藤家寛子さんの体験談や変化などから自閉症児者の不思議に迫っていくタイプや、治療者、支援者として成果をあげげられている方のノウハウや考え方を探ったり、そこから問題提起をしていくといった感じの本が多いのだがこの本はまるで異なる。


読んですぐに使える本である。


難しいことはとことん抜きにしてあるといった印象すらある。


説明部分もとても簡潔かつ感覚的に理解でき、うんうんなるほどと思いながらサクッと読み終えられる。この強烈にサクッと読める感は対談本だからというわけではないと感じる。たぶん編集方針なんだろうと勝手に納得。




棒人間からの脱却は関節から


自閉症児者の姿勢の悪さや歩き方の問題は私も前に書いたことがあるが、栗本氏も同様の現象に着目していたようである。


この本では姿勢の問題に関するアプローチとして、操体法の手法をベースにした手法が紹介されている。その要が「関節から」という視点だ。


確かに接触にたいする過敏がある自閉症児者には身体の末端部分へのアプローチのほうが容易だ。また身体各部はつながっているのだから、末端に近い部分へのアプローチが全身に波及するというのは東洋的な考え方から言えばごく自然なものでもある。


体幹部への身体接触を嫌がる自閉症児へもアプローチが可能な方法というのは非常にありがたいものだ。



紹介されているワークのほとんどが「体力」とか「がんばり」を必要としないところもやってみる事への敷居を低くしてくれるポイントだろう。



睡眠障害、多動や自傷を身体の使い方という視点から見る



何かで緊張していて睡眠に問題が出るというのは別に自閉症児者でなくてもあるだろう。


この本は、自閉症児者の様々な行動の問題をそういった誰にでもある現象の延長線上にあるものとして捉え、さまざまな解決方法を提案してくれる。


睡眠、排泄、自傷、多動の問題は自閉症児者のQOL(生活の質って訳すことが多い)に大きく影響する問題だし、できるなら何とかしたいと思う部分ではあるが、ほとんど投薬での対処しかなかったものだし、その対処がためらわれる部分でもある。


栗本氏はここに姿勢との関連を見いだし、身体全体のバランスといった東洋的な視点と操体法という手法を持ち込むことによって対処方法を編み出してきたわけだ。いろいろな場面でしっかりした姿勢が大事とも言われるし、良い姿勢で無駄のない動きをする人には余裕があるようにも思える。感覚的には非常に納得がいく話だ。



あまりこういった視点での対処法を提供してくれる本は多くないし、あっても取り組むのに高額な費用がかかったり現実的でないのだが、この本で紹介される身体ワークは身体ひとつあればいいので気軽にやってみることができる。それなら試してみても損はないだろう。



自閉症スペクトラムの理解の助けになるだけでなく、使える方法の引き出しを増やすといった意味合いからも、自閉症スペクトラム児の親御さん、自閉症スペクトラム当事者、そして支援者といった自閉症に関わるすべての人におすすめできる本だと思う。




自閉症児の親御さんも楽にという思想



自閉症スペクトラム児をもつ親御さんは大変だ。多動などがある幼児では親はその対処だけでもへとへとになる。さらに親御さんが定型発達者の場合だと、児の行動・言動が親の想像の範囲から大きく飛び出してしまうのでなかなか理解しにくい上に予測もつかず右往左往することになる。疲れるのはむしろ当然だと思う。


子どもに優しく接したい、理解したい、できるだけ良いアプローチをと思っていてもエネルギー切れになりやすい由縁である。親御さんのエネルギー切れをなんとかすることも重要な課題だ・


この本では数々の身体アセスメントと身体ワークが紹介されているが、その大半は子どもだけでなく大人もできるものだ。親子でやるものもある。



高価な機材を必要とするものは何一つないのでお財布にももちろん優しい(どのくらい優しいかというと、4000円のデジタル耳せん買うのに数ヶ月呻吟する程度しみったれた狸穴猫が全く気にならない程度である)。


身体ワークの紹介がはじまる9章の冒頭は親御さん向けの身体ワークがでんと構えているのだ。


毎日子育てにがんばっている親御さんにも楽になって欲しいという著者と版元の願いが感じられる部分である。


私もやってみたが、とても簡単なワークだが非常にリラックスできるものだった。


 


※おまけ  身体ワークというのは合う合わないが多いとも言われるが、この9章冒頭のワークはかなりヒット率が高いものだと私は考えている。というのは、狸穴猫が最近ときどき出かけているフェルデンクライスボディワークのレッスンの冒頭にやるワークがこのワークとの類似性が高いものだというのがある。手法の理論面の違いを超えて採用されるアプローチというのは本質に迫ったものである可能性が高いと考えられるからだ。








言葉にこだわるASD者の皆さん向けの注意書き



この本の内容の厚さとその語り方の平易さは特筆に値すると思うのだが、読みやすい反面、成人のASD者などで言葉の意味にこだわってしまう癖のある人には辞書的意味から遠い感覚的表現が多用されることによって若干読みにくさが生じてしまうかもしれない。



ちょっとだけ引用




今見てきたとおり関節の可動域の少ない人もいて、それが実は「じへいっこ」の姿勢のつま先立ち等につながるのですが、一方で関節がつながっていない人もいます。

自閉っ子の心身をラクにしよう! p31より引用




この「関節がつながっていない」という言葉に「関節はつながってるよ」とポンと浮かんでしまい拒否反応を示してしまう人もいると思う。だがちょっと待って欲しい。



「関節がつながっていない」を「関節の前後がうまく連動していない状態」に


「関節をつなげる」を「関節の前後が連動できることを脳に学習させる」に、それぞれ読み替えるだけで拒否反応は消えるはずだ。



こういった読みかえは基本、個々人が勝手にやるものだと私は思っているのだが、この本の内容は成人当事者にもあてはまることが多いし、身体ワーク部分もすぐ試せることが多い。もし上記のような表現の問題だけで毛嫌いしてしまってはあまりにもったいないと思い、今回はあえて読みかえ例を書いておく事にした。




勇気をもって道を開くということ


本の内容からはちょっと離れるが、この本が出版されたということに私はとても勇気づけられた。


自閉症スペクトラムの療育や適応改善で、身体へのアプローチといえば感覚統合療法が有名ではあるが、それとて効果に関する充分なエビデンスが無いと批判されることもある。ということはどういうことかといえば、この本の出版には「個別性が強すぎる」とか「エビデンスがない」などの批判の声が出る可能性がつきまとうということである。


自閉症児者の姿勢をはじめとする身体面の問題は支援の現場では認知されていたことだろうが、その理由にまで触れたものはいままで無かったのであるから尚更だ。



こういった背景を考えるに、この本は著者と版元の勇気の結晶であり、それは自閉症児者とその親御さんへの力強いエールである…と、勝手に解釈して勝手に感謝しておくことにする。



ついでだから書いておくが、そもそも、自閉症スペクトラムというものが感覚面の問題をのぞけば「社会性」に関連する生活行動レベルの事象で定義され、その原因が「脳の器質的障害」とされている状態でEBA(「エビデンスに基づく治療」と訳される)に準ずる療育が適切に選択できるのか?といえば否だ。


自閉症児者の身体面の問題すらろくすっぽ障害の定義に取り込まれていない状態では「どこからどこまでが療育で変わる可能性がある問題なのか?」が判別できるわけがないだろう。「表面的なできること」を増やせるかどうかしか判定材料にできない現状で、心身の全体に及ぶような療育法を、エビデンスを元に判定できるわけはないというわけだ。


それだけに親御さんは療育の選択に悩むだろう。かなり有望そうな方法からどう見ても怪しい方法まで、そしてタダに近い方法からめいっぱい高額な費用がかかるものまでと、療育法自体玉石混淆であるのだから尚更である。


親は我が子をじっくりと観察し、害がなさそうで良さそうな方法を、自分の目で勇気をもって選ぶしかないわけだ。




ただまあ、そんなややこしい話はさておいて、まあ、まずは9章の身体ワークでスーパーリラックス体験をしてみてもいいかもしれない。



身体が欲するものはきっと身体が教えてくれるさ
…というちょっと東洋的な身体観を振りまいて本稿は終わることにする。






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↑この本もなかなか興味い深い本だった。










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